孤独と趣味のビジネスモデル

以前、「孤独対策」という市場が意外に大きく、急成長しているという記事を書きました。

孤独対策には高齢者の孤独死をなんとかしようという部分もありますが、これはどちらかというと行政や心あるボランティア団体などの領域と思われます。

ビジネスの市場として大きいと考えられるのは、会社を定年退職または早期退職して第二の人生を模索することになる中年~シニア男性の存在です。

今回は、この領域における「孤独ビジネス」「趣味ビジネス」の可能性について述べます。


<目次>

  1. 孤独市場の背景
    1. 孤独大臣とは
    2. 消費の主役が変わる
    3. 孤独市場の成立
  2. 孤独市場には2種類ある
    1. 孤独を楽しむ市場
    2. 孤独に悩む市場
  3. 孤独市場のビジネスモデル
    1. 孤独を楽しむビジネスモデル
    2. 孤独対策のビジネスモデル
  4. この分野での「趣味ビジネス」
    1. 孤独と趣味のビジネスモデル:例1
    2. 孤独と趣味のビジネスモデル:例2
  5. まとめ

1.孤独市場の背景

1-1.孤独大臣とは

 

日本にはいろんな「大臣」がいます。

内閣総理大臣をはじめ、厚生労働大臣とか、文部科学大臣とか、農林水産大臣とか、経済産業大臣とか、防衛大臣とか、いろんな「大臣」がいます。

そのなかに「孤独大臣」がいることは、あまり知られていないようです。

 

「孤独大臣」、正確には「孤独・孤立対策担当大臣」といいます。

そのような大臣が設置されたのは、日本がイギリスに次いで2番目です。

長寿化が進み「人生100年時代」などと言われる日本ですが、その背後には

  • 孤独な人
  • 孤立している人

がたくさんいて、それも増えており、社会問題になりつつあります。

政府もそれを軽視できなくなり、イギリスにならって大臣職を設置したわけです。

日本の場合、とくに中高年の男性が定年退職後に孤独化しやすいと言われています。

 

イギリスで「孤独と健康の関係」について調査が行われました。

それによると、孤独が体や精神的の健康に及ぼす悪影響は、肥満や喫煙よりも深刻であるとのこと。

孤独がイギリス経済に与えるマイナス影響は、日本円で年間5兆円にも及ぶとされ、それがイギリスで「孤独担当大臣」が設置されることにつながりました。

 

1-2.消費の主役が変わる

 

現在、以下のような変化が、この社会に起きています。

  • 高齢者が増える
  • 1人暮らしが増える(高齢者といえども)
  • 生涯独身者が増える(高齢者といえども)

これを明るいとみるか暗いとみるかはいちがいには言えませんが、いずれにせよ、変化は起きています。

 

これまでは主婦が家庭の消費を担っていました。

野菜を買うのも主婦、洗剤やトイレットペーパーを買うのも主婦でした。

しかし1人暮らしや独身者が増えると、消費の主役は「本人」となります。

「本人による消費」が中心の時代に変わります。

「本人」が、自分で野菜や洗剤やトイレットペーパーを買います。

こうした「本人による消費」はこれまでの「家族消費」を上回る規模になる可能性があります。

というのは、たとえば主婦は外食・教養・娯楽にお金を使うことがありませんでしたが、1人暮らし男性や独身男性(とくに中年以降)は、外食・教養・娯楽にお金を使うからです。

 

1-3.孤独市場の成立

 

孤独な人が行う「本人による消費」を中心とした市場を、ここでは「孤独市場」と呼びます。

孤独市場には、前述した1人暮らし男性や独身男性のほか、定年退職した中高年の男性も含まれます。

定年退職した中高年の男性は1人暮らしでも独身でもないかもしれませんが、孤独化しやすく「本人による消費」を行いやすいという点では、共通しています。

 

大企業がこの「孤独市場」に急速に対応できるかは疑問です。

今後も主婦を中心としたファミリー層へのアプローチを続けるのではないでしょうか。

だとすれば、単身生活者をターゲットとする孤独市場は、これから「小さく起業」したい人にとって、ブルーオーシャンなのかもしれません。


2.孤独市場には2種類ある

孤独市場は好む好まざるにかかわらず、すでにかなりの規模になっていると考えられますが、今後も拡大することでしょう。

(これを「市場が成長する」と表現してよいものか、迷うところですが)

 

孤独市場は、大きく2つに分けることができます。

1つは、「孤独を楽しむ市場」。

もう1つは、「孤独に悩む市場」です。

 

2-1.孤独を楽しむ市場

 

「孤独大臣」が誕生する背景には孤独のマイナス面がありますが、そのいっぽうで

  • 1人の孤独な時間を積極的に楽しむ人も増え始めている
  • 孤立する人は増えているが、寂しさを感じない人も少なくない
  • 人とつながりすぎることに疲れてしまい、積極的に1人になりたいという傾向もある

というポジティブな側面もあります。

「孤独」の受けとめ方も変わり始めているのかもしれません。

 

2-2.孤独に悩む市場

 

この市場の主役として考えられるのは、会社を定年退職または早期退職してセカンドライフを模索することになる中年~シニア男性の存在です。

シニアによくある悩みのひとつに「友達が少ない」「友達がいない」がありますが、とくに男性の場合、物理的なきっかけ、具体的なきっかけがなければ、みずから友達を作ったり関係を維持したりするのが難しいようです。

定年退職と同時に仕事上の人とのつながりが薄れ、最後には自分と家族だけ、あるいは自分だけになり、孤独を味わうことになります。

家庭と会社のほかに「第3の居場所」を持っていた場合は問題ありませんが、会社員時代に仕事ひとすじで生きてきた人のほうが、孤独に悩む傾向があるようです。


3.孤独市場のビジネスモデル

孤独を楽しむ市場と孤独に悩む市場。

仮に前者を「ポジティブ市場」、後者を「ネガティブ市場」とここでは呼ぶことにしましょう。

(もしかすると他にもっと良いネーミングがあるかもしれませんが)

  • ポジティブ市場(孤独は自由で楽しい)
  • ネガティブ市場(孤独は1人で寂しい)

両者は性質が異なりますので、当然、登場するビジネスモデルも異なります。

 

3-1.孤独を楽しむビジネスモデル

 

孤独は自由で楽しいととらえる「ポジティブ市場」を対象とするビジネスモデルです。

たとえば

  • ひとりカラオケ
  • ひとり焼肉

など。

こうした「ひとり〇〇」は、すでに街のあちこちで見られます。

 

かつての日本では、1人で入りやすい場所は多くありませんでした。

飲食店でいうと、ほとんど店でテーブルは4人がけ。

混雑時に1人で入れるようにはなっていませんでした。

近年はそれが様変わりし、1人で入りやすい店が増えただけでなく、「1人で入る専用の店」も登場しています。

 

3-2.孤独対策のビジネスモデル

 

孤独は1人で寂しいととらえる「ネガティブ市場」を対象とするビジネスモデルです。

前述したように、この市場の主役として考えられるのは、会社を定年退職または早期退職して第二の人生を模索することになる中年~シニア男性の存在です。

「孤独は1人で寂しい」は、表現を変えると、「居場所がほしい」となります。

すなわち、言葉を飾らずに言えば、

  • ひとりぼっちのオジサンに居場所を提供すること
  • 寂しいオジサンにコミュニティを提供すること

が、この領域のビジネスモデルです。

 

例としては、

  • シニア大学(学び直し・生涯教育・リカレント教育※)
  • 趣味やスポーツの団体やサークル(歴史、カラオケ、読書、ハイキングなどいろいろ考えられます)

 

なお、新しくコミュニティに参加するには大なり小なり「勇気」がいるもの。

提供側(コミュニティの主催側)には「勇気が出ないという心理的なハードル」を下げる工夫が求められます。


4.この分野での「趣味ビジネス」

孤独市場は規模の大きな市場ですが、だからといってビジネスモデルも規模の大きなものでなくてはならない、というわけではありません。

もし、あなた自身が「趣味」を持っているなら、その趣味をコミュニティビジネスに変え、「孤独に悩む人も入れる居場所」として提供することができます。

「ビジネス」という言葉がつくとそれなりのスケールのものをイメージしがちですが、スケールにこだわる必要はありません。

ここでは「お小遣い程度~生計をたてる程度」くらいのスモールスケールのものを例示します。

スモールスケールではあれ、寂しいオジサンに居場所を提供することのできる、立派な社会貢献です。

前述したように、孤独が健康に及ぼす悪影響は喫煙や過度の飲酒より深刻だと言われています。

コミュニティー(居場所)を提供することは、健康を提供することでもあるのです。

 

4-1.孤独と趣味のビジネスモデル:例1

 

たとえば、あなたはワイン好きで1人でワインを楽しんでいるとします。

もちろん、このまま1人で楽しみつづけるのも「あり」です。

でも、同好の士、つまり一緒にワインを楽しむ仲間を募集し、月に1回でもみんなで「ワインを語る会」を開くようになったと想像してみてください。

1人でワインを楽しんでいるうちは、あなたは自分でワインを買わなければなりません。

こうした費用を「趣味コスト」と呼びます。

 

ところがみんなで会費を集めて「ワインを語る会」を開くようになり、あなた自身がその中心人物になれば、

  • 集めた会費で複数の異なるワインを味わうことができる。
  • そうしたければ、あなたの分の会費をゼロにすることができる(=趣味コストが下がる)。
  • 中心人物であるあなたは、メンバーのみんなに「先生」あるいは「先輩」のような立場でレクチャーすることもできる。

だれも損しないし、だれもが楽しい。

孤独対策になる小さなビジネスモデルの、1つのありかたです。

 

4-2.孤独と趣味のビジネスモデル:例2

 

歌の好きな人が、カラオケに行ったりそういう教室に通ったりする場合、お金を払うことになります。

これも「趣味コスト」です。

趣味コストは、その気になれば下げることができます。

たとえば、素人の歌好きが集まるサークルを作ってそのサークルを主宰すれば、主宰者の趣味コストをサークルの運営経費から捻出することが可能になります。

前述した例と同様、孤独対策になる小さなビジネスモデルの、1つのありかたです。


5.まとめ

「孤独大臣」が設置されるほど、孤独は社会問題になっています。

孤独な人が生み出す市場(孤独市場)も、大きいと考えられます。

孤独市場を大きく分解すると、「孤独を楽しむ市場」「孤独に悩む市場」の2つに分けられます。

前者(孤独を楽しむ市場)には「ひとり〇〇」に代表されるようなビジネスモデルがあります。

後者(孤独に悩む市場)には「コミュニティの提供」という形のビジネスモデルが求められます。

孤独市場は規模の大きな市場ですが、個々のビジネスモデルは小さくても成立し、立派に社会貢献になります。

孤独が健康に及ぼす悪影響は喫煙や過度の飲酒より深刻だと言われていることもあり、コミュニティーを提供することは、健康を提供することでもあります。


  • 検定試験を受けるのにメールアドレスの登録などは必要ありません。
  • 合格者全員に進呈:「独立して講師になる!教室をひらく!スタートアップガイド(PDF)」